
効果音の作り方について説明する松陰さん
Part.1
でおっしゃった、「現場で音の取捨選択をする」について、
もう少し聞かせていただいていいですか?
選択できるということは、仕上がりの音のイメージが、
すてに頭の中にあるということですか?
そう。まさしくその通りで、現場で録りながら、
仕上がった音のイメージは、すでに持っているんです。
「ここは音楽をいれるからセリフはもっと明瞭にしたほうがいい」とか、
「ここは効果音(川音や街の雑踏など)を入れるから〜大丈夫」とか、
そのイメージ次第で、音の録り方も変わってくるわけ。
たとえば、僕が担当した『茶々 天涯の貴妃』(橋本一監督)
(以下、『茶々』)の話をすると、
後半に、和央ようかさん演じる茶々が幼い頃の自分に会う、
つまり、現在と過去が同居するシーンがあるでしょ。
あのシーンは、事前に監督に、
「すべてオンリーでいきたい」と申し出た。
セットで静かな場所での撮影だったから、
普通なら問題なくシンクロで録れるんだけど、
あえてオンリーにこだわった。
みんな面倒だと思ったんじゃないかな。だって、
撮影が終わるのは深夜で、1カット撮るごとにオンリーの時間をもらうんだから。
でも、「いや、ここはオンリーでいく」とこだわったんです。
というのも、画と音とのシンクロ性をなくしたかったんですね。
シンクロ性をなくしたかった?
そうです。画と音とのシンクロ性がなくなることで、
現実味がなくなり、幻想シーンであることが浮き立ってくるだろうと。
幼い茶々たちが走り回っている足音も、
後から効果音として付けた。その場では録っていないんです。
そういうことは、撮影に入る前に全体の音のイメージがないと、
できないですね。
そういうイメージというのは、
台本を読んだ段階でできているものなんですか?
台本を読んで、監督と打ち合せをしてできる部分もあるけど、
撮影がクランクインしてからは、よりはっきりしていきますね。
映画の場合、撮影は軽いシーンや前半のシーンを先に、
ラストシーンや重要な場面は後に撮るのが普通だし、
テストをくりかえし、撮影しているうちに、
監督の求めているものや役者の演じ方がつかめていく。
なので、音に対しても「じゃあこうしよう」と。
同じ『茶々』で言えば、ラストで大阪城が崩れるシーンは、
城が崩れていく音というのは一切入れていないんです。音楽だけ。
あれは、崩壊する効果音を、音楽と合わせる整音の段階で、
「うーん、音楽だけのほうが崩れるシーンが印象に残るなあ」
と思って外しました。そういうこともあります。
画と音は必ずしもあっていなくていい、という例でもありますよね。

現場では、録音技師さんは、
少し離れたところにベースを作って仕事をしていますよね。
音だけで、役者の演じ方や演出がわかるものなんですか?
めちゃくちゃよくわかりますよ。
たしかに物理的には一番離れたところにいるけど、
ある意味、役者たちのど真ん中で仕事をしているんです。
衣裳の下にマイクをしのばせていたりするから、
役者の心臓の音まで聞こえる。
緊張しているかどうか、心情まで、よくわかるんですね。
技師は一応、モニターで現場の画を見れるんだけど、
僕の場合は、それさえなくても大丈夫だと思っています。
画があると、音に鈍感になってしまうんですよね。
たとえば、役者が椅子から立ち上がったときのアクションノイズが、
セリフに被ったとする。
音だけ聞いていると、そのノイズに敏感に反応できるんだけど、
画を観ていると「あ、そういう音なら入っていてもOKかな」
と思ってしまうんです。
ああ、わかる気がします。
そもそも、目に見えないものを扱っているのは、録音部だけなんですね。
撮影も、照明も、美術も、衣裳も全部、目に見える部分でしょ。
だから、僕らは音に関してだけ真剣にやったらいいし、
言い方を変えれば、音に関してはもっとエゴを出していいと思うんです。
もし録音部が、「時間が押しているし、画がOKなら、
そのくらいのノイズはあとでなんとかしよう」
というような姿勢で現場に臨んでいたとしたら、
「そんな状況で、役者はいい芝居ができるのか」と思う。
つまり、現場の空気がいい加減になっていくわけです。
僕らが、いい状態の芝居を録ろうと真剣であるほど、
役者もノってくるという部分は、きっとあると思うし、
役者が芝居に集中できる静かな環境を、
僕たちが作ってあげなきゃと思うんです。
音に関しては、もっとエゴを出していい。
うん。それはどのパートでもそうだと思います。
照明も、撮影も、自分たちの一番いい方法で撮ろうとすべき。
はなから協調的にやるなら、
ほんまに望んでいるのはどこなのか、
わからなくなっちゃうような気はしますね。

録音室。奥にはステージやスクリーンもあり、けっこう広い。
現在は専用の音楽スタジオで行われる映画音楽の収録も、かつてはこの部屋で行われていたそうだ。
ちなみに、和楽は現在もここで収録されているという。
